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デザイン事例紹介:京都市京セラ美術館(京都市美術館)リニューアルオープンのデザイン

コラム制作物

改修工事のため休館していた「京都市美術館」が「京都市京セラ美術館」として2020年春*にリニューアルオープン。
広報媒体のデザインを手がけたのはライブアートブックスのデザイナー・芝野健太です。

*新型コロナウイルス感染拡大と、それにともなう緊急事態宣言により、事前予約制で5月26日よりオープンとなりました。

 
 

写真:来田猛

 
 

歴史的建造物をアップデート

1933年に開館した京都市美術館(創建時の名称は「大礼記念京都美術館」)は、当時の情勢を象徴する「帝冠様式」を採用した近代建築で、国内に現存する公立美術館の建物としてはもっとも古いものです。京都市民をはじめとする人々から、長きにわたり愛されてきましたが、2020年「京都市京セラ美術館」として生まれ変わりました(リニューアルにあたり、京都市はネーミングライツ制度を導入。京セラ株式会社からおよそ50億円の支援を得て、通称を「京都市京セラ美術館」とする50年間のネーミングライツ契約を締結しました)。
改修・再生を手がけたのは、青木淳・西澤徹夫設計共同体。和洋折衷という帝冠様式ならではの意匠や設えを活かしながら、今日的なアプローチを巧みに差し挟み、過去と未来、伝統と革新が一体化した空間を立ち上げました。
歴史的な重みを持つ本館は保存・継承しつつ、コンテンポラリーアートに対応した新館「東山キューブ」や、新進作家の支援のためのスペース「ザ・トライアングル」の新設、さらにカフェやミュージアムショップの併設により、いままで以上に〝開かれた美術館〟へと進化を遂げました。
なお、青木さんは2019年4月から館長にも就任。第一線で活躍する世界的な建築家をトップに据えたことからも、京都市の意気込みが伝わってきます。

 
 

段階的に制作したティザーチラシ・総合パンフレット

 
 

リニューアルの過程そのものを可視化

リニューアルオープンを伝える広報物をデザインしたのは芝野健太。主軸となるティザーチラシや総合パンフレットでは「リニューアルオープンの情報を段階的に公開していく」という広報プランに基づき、制作時期や配布時期がそれぞれ異なることを利用して、「美術館の歴史を段階的に伝達していく」というデザイニングを実践しました。
 

「およそ1世紀近い歴史をもつ美術館ですから、1933年の開館から2020年のリニューアルオープンにかけて、数えきれないほど多くのできごとがあったと思います。それらをすべて網羅はできないまでも、主なできごとを時系列で紹介しながら、レイアウト上のアクセントとして、〝時間の移り変わり〟を示す矢印をちりばめています」(芝野)

 

文字情報の背景としてもちいたのは外観の写真。創建時/改修工事中/リニューアル工事竣工後と並べることで、〝空間の移り変わり〟を示すとともに、ゆるやかなグラデーションで3点のイメージを連続させ、リニューアルの過程そのものを可視化しています。

 

「情報を発信した時点では、まだ休館中だったわけですが、休館している期間も、いわば歴史のなかのひとこまです。だから、これまでの美術館を知っている方々には、およそ100年の時間軸をふりかえっていただきたいし、これから興味をもってくれる方々には、これから100年の美術館の姿を想像してもらいたい。そのためのきっかけとして、メインビジュアルのありかたを考えました」(芝野)

 
 

屋外広告

 
 

時間と空間の重なりを印刷で表現

芝野の強みは、ハードウェアとしての印刷とソフトウェアとしてのデザイン、この両方を熟知しているところ。デザインを成り立たせるための技術と、印刷の可能性を押し広げる発想を、分けることなく、一気に組み合わせることができるのです。こうした志向は、今回の仕事にも反映されています。

 

「重要な要素であるグラデーション処理では〝色相の変化幅をどう設計するか〟に留意しました。個々の広報物では、色相がデリケートに遷移するよう設定していますが、これらをひとつに繋げると、暖色系から寒色系へダイナミックに変化していく。データだけでなく印刷濃度や色のバランスを現場で調整しながら、目には見えない時間や美術館がこれまで歩んできた道のりといった大きな流れを表現しました」(芝野)

 

また、建築の写真はK(スミ)、グラデーションは高彩度プロセスインキ「Kaleido®」のCMY、歴史を記した文章は特色(ホワイト)で印刷。インキを物理的に重ねることで、ハードウェアとしての建築とソフトウェアとしての歴史を重ねあわせ、寓意的かつ視覚的なインパクトを与えることに成功しました。
館長である青木淳さんは、リニューアルオープンにあたり、次のようなコメントを発表しています。いわく「建築そのものは動かず、変わりません。しかし、それを見、経験する人々が心に写しとるその像は、時とともに変化していきます」(「像を重ねていく美術館」から抜粋)と。芝野のデザインもまた、時とともに変化していく像を紙のうえに定着し、次代に残していこうという試みのひとつなのです。

 
 

左・中|多言語のフロアパンフ 右|新設された新館「東山キューブ」の外壁から抽出したパターンをグロスニスで印刷

 

[美術館情報]

京都市京セラ美術館

開館時間|10:00-18:00 *事前予約制で入館受付中
休館日|月曜日(祝日の場合は開館)・年末年始
住所|〒606-8344 京都市左京区岡崎円勝寺町124 TEL|075-771-4334
→ウェブサイト

「LAB express vol.01」について


本記事は、2020年8月に発行した弊社初のタブロイド「LAB express vol.01」より転載しました。
「LAB express vol.01」についての詳細はこちら→ よりご覧ください。

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