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インタビュー#2: 川島小鳥(写真家)、藤田裕美(グラフィックデザイナー)「本は時空を超える」

コラム

写真家の川島小鳥さんが手掛ける、piyo piyo press。2021年に立ち上がり、同年に小橋陽介さんの画集『花とイルカとユニコーン』、俳優の仲野太賀さんを川島さんが撮影した写真集 『(世界) ²』の2冊をリリース。出版レーベルをつくった理由、『(世界) ²』の制作過程、本という存在についての考えなどを、川島さんと、デザインを担う藤田裕美さんに聞きました。

*本記事は2022年10月に発行した「LAB express vol.05」から転載しました。

 
 
 

piyo piyo pressができるまで

── いちばん最初に藤田さんからライブアートブックスにお話をいただいたのが、2021年の夏で、小橋陽介さんの作品集を小鳥さんのディレクションでつくるとうかがって、スペシャルな案件だと思いました。その作品集『花とイルカとユニコーン』がpiyo piyo pressから同年10月に刊行され、続いて小鳥さんが仲野太賀さんを撮った写真集『(世界) ²』が12月と、駆け抜けるように2冊が刊行されました。あえて自分でpiyo piyo pressという出版社をつくって、レーベルとして本を出してみようと思ったきっかけを、お聞かせいただけますか。

 

川島: 最初は、レーベルつくるところまでは考えていませんでした。2021年は好きなことしようと思っていたんですけど、小橋くんの本をつくりたいというのと、いままで撮りためていた太賀くんの写真を本にしたいというアイデアが5月ぐらいに降ってきて。いままで、自費出版で本をつくったことは何度もありました。でもデザインや印刷・製本も含めてもっとクオリティの高いものをつくりたいなと思って、藤田くんに相談したのがいちばん最初のきっかけです。

 

── この写真集でしたら、出版社に声をかけても、出したいところは見つかりそうな気もします。だけど小橋さんの本から続いて、ご自身で出してみたいと思われたのは、何がポイントだったんですか。

 

川島: いちばんワクワクするのは、自費出版だからこそできることをやるということと、自費出版なのにこんなことができるんだ、と驚いてもらえることをすることだと思って。デザインのクオリティとか、印刷のクオリティにもこだわりたかった。あと太賀くんというメジャーな人の本なのに、少人数でつくるのもいいなと思った。流通も含めて、手の届く範囲でやってみたいと思って、自分たちで出版しました。

 
 
 

ハードカバー/ソフトカバー

── 『(世界) ²』は、バインダーの中にコデックス装の本が挟まっている、すごく面白い形態の本ですよね。この形はどういうところから考えたのですか。

 

川島: ふだん本をつくるときはソフトカバーが多いんですけど、今回の写真集の見せ方は、手に取りやすさはありつつも「カッコよさ」があるものにしたいと藤田くんにずっと言っていて。

 

藤田: それでハードカバーが良いかソフトカバーが良いかで、小鳥さんがものすごくギリギリまで迷って(笑)。ハードカバーに決めたと思ったら、「やっぱりソフトカバーにする!」と言ってきたり、深夜に思い詰めたラリーが何回かあったような気がします。最初はハードカバーにコデックスの冊子をくっつけるスイス装のような形を試してみたんですけど、どうしても構造上、若干開きにくいページが出てきてしまう。でもこの本においては開きが良いというのはかなり優先順位が高いリクエストだった。開きの良さを阻害する製本はやっぱりやめようと、スイス装はやめました。ハードカバーっぽさのあるソフトカバーのやり方を探っているうちに、先行していた小橋くんの画集と同じ形にしたら面白いかもと思って、そういう仕様にしたという感じですね。

 

川島: 見え方としてはハードカバーが良いと2人の意見が一致したんですけど、それで写真が見にくくなっちゃうのは嫌だなということで、いまの形になりました。

 

藤田: 通常の出版社だと、流通上の問題がどうしても出てきてしまう。こういうちょっと変わった仕様も、インディペンデントだからこそできたというか、みんなで面白がれたというのがありました。

 
 

ハードカバーのバインダーと写真集本体

 
 
 

破棄する紙が、タブロイドに

── もう一つ面白いのが、『PIYO PIYO PAPER VOL. 0』というタブロイドです。『(世界) ²』の本番で印刷がうまくいかなかった台の「ヤレ紙」(「金門」という茶色い紙)を使ってつくられていて、仲野さんと小鳥さんとの特別対談や、藤田さんによる制作の「裏話日記」などのオリジナルコンテンツが載っています。

 

藤田: 『(世界) ²』は、先行販売や地方での販売もあったので時間差で流通していったというのもあって、先に売り出した本屋さんでの売れ方がすさまじくて、あっという間に何百部も売れてしまった。その後に仕入れてくださった本屋さんやギャラリーが売りやすくするための「オマケ」の一環として、『PIYO PIYO PAPER』の企画を考えていた記憶があります。

 

川島: 本というのは、「物」じゃないですか。ネットにはない面白さがある。いまの時代、欲しいものはすぐ手に入ることも多いけど、逆に「その場所」に行かないともらえないものをつくるのもいいかなと思ったんです。僕が10代のころは、欲しい物が手に入らない悔しさはあったなと思って、今回そういうことをやったら面白いんじゃないかって。それと太賀くんが忙しいのもあって、プロモーションに参加できなかったので、そこでしか太賀くんの発言が読めない印刷物をつくりたかった。元々アイデアはあったんですけど、一色コピーでつくるようなイメージでいました。写真集の印刷本番で色ムラが出たことで、余り紙がたくさん出てしまった。みんなで喋っていたら、そこに新しいコンテンツを刷ってタブロイドにするアイデアを誰かが思いついて。そういう一見失敗のような出来事も、今回、うまい具合に良い結果につながっていきました。

 

── 印刷の仕事をふだんからしていると、ヤレ紙として破棄する紙が工場に積み上がっていても、あまり何も思わなくなります。最初は「こんなに紙を捨てるんだ」と一々驚いていましたが、いつの間にか慣れっこになっている。この『PIYO PIYO PAPER』は、物を捨てずにまた別の形で生まれ変わらせる試みで、衝撃を受け、面白いなと思いました。

 
 
 

本は時空を超える

── いまはデジタルの時代で、本も電子書籍であれば、ワンクリックですぐに内容が読めてしまう環境があります。そんな時代においての本や印刷物の意味を、どのようにお考えですか。

 

川島: 本になると時空を超えると思う。僕が本とか写真集が好きになったきっかけも、学校の図書室にあった昔の写真集でした。1970年代の本だったんですけど、その本を見たときに、その人のパーソナルな気持ちがいま自分の目の前にある気がした。それがすごいことだなと思って。本をつくったということは、自分のもとから離れていくということなんです。たとえば10年後に、ふとしたときに知らない人が手に取って、「これいいじゃん」と古本屋で買ったり、そういうことが起きたらすごく良いなと思って。
ユトレヒトで刊行記念の展覧会をしたときに、会場から「すごく緊張した」と言いながら出てきた女の子がいて、「初めてこういう写真集を買った」と。それを聞いたときにすごく、つくって良かったなって思った。ある意味敷居が高いものというか、良い本をつくった結果、本をふだん買わない人にも手に取ってもらえた。伝わるんだ、と思いました。

 

── 良い本をつくれば、それが広く伝わり、時空を超えていくということですね。藤田さんは、本や印刷物はどうあるべきだとお考えですか。

 

藤田: 印刷や製本の現場に行くたびに思うんですけど、本にはものすごく高度な技術が詰まっています。印刷もバインディングもそれぞれ大変だし、クオリティコントロールがすごく難しい、繊細なプロダクトをつくっているという認識が僕の中ではある。だから、「写真集は何千円を切らないと売れない」からと、それに合わせて価格を下げるのは違うかなと思っていて。ヨーロッパとかの市場だと、写真集はもっと高い価格で売られている場合が多い。やっぱり本って、それだけの技術が詰め込まれたものだから、ある程度の値段はつけてしかるべきだと常々思ってはいますね。
とはいえ小鳥さんの写真の場合は若いファンも多いので、ある程度価格を抑えて、高校生とか十代の学生でも買いやすいように配慮はしたいと思いつつ、そればかり考えると安すぎるものになってしまう。価格設定に関しては、かなりそこでせめぎ合いはあったかなと思いますね。
あと本の面白いところは、拡散することですね。写真家にとって作品を発表する場所は、まず展示があって、それと対をなすように写真集や本がある。写真家が込めた世界観をパッケージして、純度が高い状態で、遠くまで届けられるのが本の面白さ。それが本を僕らがつくりつづける理由の一つなのかなという気はします。

 
 

[書籍情報]

川島小鳥 『(世界)²』

w195×h263mm 3,900円+税
発行年|2021 発行|piyo piyo press
デザイン|藤田裕美 印刷・製本|ライブアートブックス
*制作事例ページはこちらをご覧ください。

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