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編訳者インタビュー: 虐殺と性暴力の記憶をたどりなおす―ジョナサン・トーゴヴニク『あれから─ルワンダ ジェノサイドから生まれて』

コラム

2010年に刊行された『ルワンダ ジェノサイドから生まれて』。
その10年後、続編を刊行するべく奔走した竹内万里子さんに、企画・翻訳にいたる背景をうかがいました。

*本記事は2020年11月に発行した「LAB express vol.02」から転載しました。

 
 

歴史的悲劇を伝える

1994年、中央アフリカの小国・ルワンダで大量虐殺が発生しました。20世紀最大の悲劇と呼ばれる「ルワンダ虐殺」です。たった100日間で80万人とも100万人ともいわれる人々が命を奪われたのです。
殺害を企てたのは多数派のフツの人々、殺されたのは少数派のツチや穏健派のフツの人々。また、多くのツチの女性は、家族を目の前で惨殺されただけでなく、彼女たち自身も性暴力によって蹂躙され、肉体的にも精神的にも回復困難な状況に陥りました。結果として、推定2万人もの〝望まれないこどもたち〟が生まれたのです。筆舌に尽くしがたい惨状は、『ジェノサイドの丘─ルワンダ虐殺の隠された真実』といったノンフィクションや、『ホテル・ルワンダ』、『ルワンダの涙』などの映画でも、くりかえし伝えられてきました。
赤々舎からジョナサン・トーゴヴニク氏の写真とインタビューによる『ルワンダ ジェノサイドから生まれて』の邦訳が出たのは2010年のこと。これは2006年にルワンダを訪れたトーゴヴニク氏が、親子のポートレート撮影にくわえ、女性たちへのインタビューをおこなったもので、この強靭かつ繊細な作品は、2012年、アルル国際写真フェスティバルでディスカバリー・アワードを受賞することになります。
そして2020年、続編にあたる『あれから─ルワンダ ジェノサイドから生まれて』は、写真批評家・竹内万里子さんの尽力によって、世界で初めて書籍のかたちで発表されました。

 
 

なぜ、紙の本なのか

「前作は、英語版のほかに、ドイツ語版やスペイン語版、そして日本語版も刊行されましたが、続編のほうは、ジョナサンが共同設立したルワンダ財団のウェブサイトやいくつかのメディアで公開されているだけ。ごく素直に、前作と本作を2冊の本として並べたい思いもありましたし、いまの時代、紙の本として出す意義も強く感じていました」(竹内)

制作費の一部はクラウドファンディングを利用して調達。和英併記にし、国内だけでなく、海外での流通も視野に入れています。いわゆる原書が存在しないわけですから、前作を踏まえ、トーゴヴニク氏の意向も汲みとりつつ、ブックデザインを手がけた大西正一さんとともに、本としての組み立てを一から考えていったそうです。

まず、2018年に撮影した親子のポートレートからはじまり、ページをめくると、12年前、2006年に撮影した親子のポートレートへつづきます。次のページでは、こどものインタビューが載っていて、さらにその先のページでは、2018年に撮影したこどもの単独ポートレートと、2006年に撮影したこどもの単独ポートレートが見開きで並びます。最後に母親のインタビューが載っているという流れです。このパターンで16組の親子が登場します」(大西)

ページをめくる行為が過去と現在の往還を導き、あわせてイメージとテキストがゆるやかに重層していく構造は、紙の本ならではのアプローチといえるでしょう。こうした精密な回路の設定は、人々をジェノサイドへと駆り立てた〝粗雑なメッセージ〟への抵抗としてとらえることもできそうです。

 
 

未来への道標として

他者の抹殺や性暴力での被害。これらはけっして遠い彼方、過ぎ去った過去の悲劇ではありません。残念ながら、この日本をふくめ、〝いま・ここ〟において、だれの身にも起こりうる出来事でもあるのです。

「2006年の時点では、こどもたちはまだ10代前半でしたが、2018年になると、すでに成人し、20代半ばに達しています。今回、成長したこどもたちの写真とことばが載っていることには、おおきな意味があると感じています。たとえば、母と子の視点や語りが、当然、異なっているケースも多いのですが、逆にいうと〝異なっていること〟自体によって、それぞれの物語や人生は深い陰影を帯びていく。そうした複雑さや奥行きこそが、普遍的な〝生きる力〟につながっていくようにも感じるのです」(竹内)

原題の“Disclosure” とは「露見」や「発覚」「暴露」を意味する単語。このいくぶん硬さのある英語を、やさしい印象の「あれから」というひらがなに置き換えたあたり、母親たちやこどもたちへの共感とあわせ、だれにとっても開かれた本にしたいという思いを感じます。その願いはやわらかな造本にあらわれています。

「デジタル環境での写真は、どうしても消費されがちになるのですが、ページをめくりながら紙の本と向きあう経験は、他者の存在を認め、対話することにつながると信じています。この本を手にした方々が、それぞれの読み方で複数の物語を受けとめ、他者とともに生きることへ、思いを馳せていただければ……と思っています」(竹内)

 

[書籍情報]

ジョナサン・トーゴヴニク 『あれから─ルワンダ ジェノサイドから生まれて』

114ページ、250×212 mm、3,500円+税
発行日|2020年6月20日 発行所|赤々舎 企画・翻訳|竹内万里子
編集|姫野希美、竹内万里子 造本設計・デザイン|大西正一
印刷・製本|ライブアートブックス 印刷設計|川村佳之
*本書のご購入は赤々舎のウェブサイトをご覧ください。

「LAB express vol.02」について


本記事は2020年11月に発行した「LAB epress vol.02」から転載しました。
「LAB express vol.02」についての詳細はこちら→ よりご覧ください。

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